お嬢さんカテゴリ

2007年05月31日

「お嬢さんが亡くなったそうで」(24) 5/31 約束 (最終回)



■目次 → 1/29 第1回
←(23) 5/25 デート

■(24)約束 (最終回)

帰る途中にさっきのAの顔を思い返していた。
「まさか、まさか本当においてくれるとは思わなかったから」といった時のバツの悪そうな表情や、Kに「不満って小遣いぐらいじゃないのかよ」と聞かれた時のそんなこと問題じゃないといった苛ついた表情。Aの本心はどこにあったのだろう。
最初は、いやずっと「なんて非常識でワガママな奴だ」と思っていたが、それはAの素振りだったのだろうか。AはBが作り上げたこの企画の『お嬢さん』を演じきっただけのかもしれない。どこまでがどう自主的なのか本当のところはわからないけれど。

家に帰ると、携帯ではなくPCの方にAからメールが届いていた。
「私が言ったセリフ」
というメールの件名に首をひねり、メールを開く。
メールには
さっきは長いセリフを聞いてくれてありがとうw
携帯メモしてなかったようだし、間違えて伝えられるといけないから、
カラオケボックスで言ったこと、多摩川で言ったことを正確に伝えておくよ。

とあり、その下に、先日カラオケボックスでAが言ったセリフと、さっき多摩川でAが話したセリフがテキスト化されて送られてきていた。
俺は苦笑しながら返信のタイプを始めた。
ありがとう。でも普通そんな人いるか?(笑)
最後までAはAらしいねえ。非常識が常識だな。
でも親切心は素直に受け取っておく。これ使わせてもらうよ。

と書き、ちょっと躊躇いながら以下の質問をしてみた。
で、Kんちは大丈夫だった?

送信後、Aの送ってくれたテキストを眺めて思い出しながらボケっとしたり、さっきのことを思い出していたがすぐに返信が来た。
お父さんとお母さんには怒られちゃったw
でも、とりあえず田舎帰る話をして、
最後にあの遊園地へ招待させてくださいって言ったよ。
なんとか納得してくれてよかった。

遊園地はすぐに行くことにしたんだ。
二週間後にゴールデンウィークがあるからそこで行くつもり。
Kさんは来ないみたいだけど、Xは来る?

参ったな、ご両親とAとの大切な最後の旅行に自分が邪魔してもいいものか。
ただ、Aのメールの最後の一文にある、
Yさんとの約束だったんでしょ?

がその通りなので、最後のKさんご両親への孝行を手伝う意味も兼ねて行くことになった。
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2007年05月25日

「お嬢さんが亡くなったそうで」(23) 5/25 デート



■目次 → 1/29 第1回
←(22) 5/16 捜索、続き

■(23)デート

そう言うとAは少しホッとしたかのような仕草をした。
俺は表情を見てなんとなく言わんとしていることがわかっていたので特に驚きというのはなかった。それよりもやっと気づいてくれたかといった安堵感が大きかったので、特に大きなリアクションはせずにAの話を聞いていた。
だがKの方はもちろんそうはいかず、「え? やめる?」と少し絶句している。
AもKには多少の説明が必要と思ったのか、Kの方に振り返ってうなずき、
「Kさん、これまでお世話になりました」
と頭を下げた。
「いや、なにやってんだって」
KはAの腕をつかんだ。
「居ればいいじゃん。お前、どうしたんだよ。その、不満って小遣いぐらいじゃないのかよ」
瞬間、Aの顔に少し恥の色が浮かんだように見えた。
昔の恥ずかしいこと、嫌なことを聞かれたような表情。
「小遣いなんてどうでもいいのよ。別にそんな、必要以上使ってないし」
「それじゃなにが……」
Aがちょっと説明することにいら立ったような表情を見せたので、
「まあいいじゃん」
と助け舟を出す。
「いつまでも居る訳にいかないだろう」
「いやそうかもしれないけどさ」続きを読む

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2007年05月16日

「お嬢さんが亡くなったそうで」(22) 5/16 捜索、続き


■流れ
200X年事件 ──→ 2006/12/25初めての来訪 → 2007/1/5友人帰国
→ 1/27その話を聞く → 1/29(1)1/30(2)昨日書いた動機について
2/1(3)K宅訪問にあたり2/3(4)豆まきで初対面2/9(5)Kからのメール
2/13(6)三連休の出来事2/20(7)Kと飲む2/23(8)六本木にて
3/6(9)K彼女さんと話す3/9(10)Aの秘密(1)3/13(11)Aの秘密(2)
3/16(12)Aの秘密(3)3/22(13)次の段階3/27(14)調査
4/2(15)Aのいない日4/9(16)目撃4/17(17)お嬢さんパート2
4/18(18)お嬢さんパート2、続き4/24(19)大切なもの5/2(20)不明
5/11(21)捜索

5/16(22)捜索、続き

■(22)捜索、続き

4/15(日)。この日は少し範囲を広げて探してみることにする。
昨日は駅前のネカフェに行ったけど、この地にネカフェは他には無いものかと駅からAの実家まで車で走らせる。
少し走ると、A宅へ向かう大通りの脇にネカフェを発見した。あまり聞きなれない名前のネカフェというかマンガ喫茶だったけどとりあえず探しに入った。
またKと並んで席を取り、Kは奥から席を探し始めた。俺は昨日の眼鏡男子のアドバイス通りまずは『蒼天航路』が置いてある棚を探してみる。
モーニング関係の漫画の単行本を見ていくと『蒼天航路』は36巻もあるのですぐ見つかった。そして気づいた、途中からなくなっている……27巻から31巻までがごっそり抜けていた。
ネカフェにAと行った時のことを思い出す。

──なんで漫画、2巻ずつしか持ってこないの? 単行本なんて『5巻抜き』ぐらいしないと先の巻を持ってかれちゃうよ?──

これ、Aじゃないか? と思い、Kが行ったのとは違う階を探してみる。ここは個室が多く非常に不自然なのでなるべく自然に、しかも素早く一部屋一部屋を覗いてみる。フロアの半分ぐらい探したんじゃないかと思う頃、通路でAとバッタリ出会った。
「あ──っ!!」
トイレから『蒼天航路』を一冊だけ持って出てきている。
「なんで? え? え?」
と戸惑うAに僕は憤慨し、
「お前『蒼天航路』をトイレで読むな! 他の人に迷惑だし、これはそういう本じゃないんだよ」
と、そっちの方で怒った。そして「ああそうだ、探しに来た」と笑った。
Aは表情が抜け落ちたような顔でこちらを見ている。
「あの、あれ、どこ行ってたんだよ」
「え、ここ……」
「ちょっと、席で話そう。どこ?」
「こっち……」
と席に座った。席というか、ここはソファーというかベッドの上みたいに寝っ転がれるところだった。
「疲れたー。そうだ、Kも来てるんだよ」
Kに電話して、場所を教える。
「駅前とか探したんだけど」
「あ、駅前はホラ、パイプ椅子だから。汚いし」
そうだ、Aは「ソファー席じゃないと嫌」ってタイプだったっけ。
「ずっとここにいたの?」
「いや、たまに家に帰って……。っていうか、よくわかったねー」
テンションが低いけどどうしたんだろう。
「駅にいなかったから、またAんち行こうと思って。そうだ、A、電話に出た?」と聞くとうなずく。「そうなんだ、話してくれればよかったのに。心配したよ〜俺とかKとかKのご両親とか、Bとかはそうでもないけど」というと、Aは初めて吹くように微かに笑った。
そこでKが来る。
「いた! えーすごいな。なんだよお前、ここにいたんだ」
Aが「そうだよ」というと「なんだよ、こっちでもネットカフェ難民かよ」と言うので、Aは「この人まだこの調子なんだねえ」とため息をついた。
「じゃあ、帰るよ。見つかったから」
その言葉に俺とKが「おおー」と感嘆すると、「なんか壮大な隠れんぼみたい」とくすくす笑っている。

ちょっとお父さんにお世話になったから書き置きをしたいということで一旦Aの家へ行く。家から戻ってくるAに、「お父さんと暮らしてたんでしょ、大丈夫なの?」と聞くと、「大丈夫よ、元々厄介者がちょっと厄介になっただけだし」とのことだった。
「またKんちに戻るわけになるけど、大丈夫なの?」
「元々家出ってわけじゃないから大丈夫。家出じゃなく『上京』だから」
その言葉に俺とKは妙に納得して、それから東京に帰ることになった。
高速に乗るとAは深くため息をついて、「ああ、また戻るのかあ。田舎のネカフェも好きだったけどな」と名残惜しそうに後ろを見る。
「ネカフェならどこでもいいのかよ」とKが聞くと、「ソファーがあって、お手洗いが綺麗ならね。でもいい里帰りになったかも」と満足そうな顔になっている。
しばらく高速に乗るとAはすかさず寝たが、高速を降りる頃には目を覚ました。
「あ、もう着いちゃった?」
「まだ降りたところだよ」とKがいうと、「海が見たい、無理か、じゃあ川!」と言い出した。
「川ってどこ」
「多摩川でいいよ」
「ちょっと時間かかるよ」
「大丈夫」
俺はそんなKとAのやり取りを聞きながら「まだどこか行くのか」と思ってたが、途中で帰るわけにもいかずついて行くことにした。

渋滞を抜けて多摩川の側に車を停め、車を降りて伸びをして深呼吸をする。
周りは既に夕暮れ時になっており、少し川沿いまで歩いて夕日の中草むらに腰掛けた。
唐突にAが「いいスペクタクル書けそう?」と聞いてくるので焦り、「なんだよ」と笑う。
「え、スペクタクル?」とKが聞いてきたが、「このまま、また元通りになるの?」と聞き返す。
一瞬AとKは黙り、どっちが先に話すか顔色を伺いあっていた。
「だろ?」
とKが聞くと、Aは少し表情を曇らせた。
「どうなんだろ……」
当然「まあね」と言うかと思ったので、その返事に俺とKは戸惑った。
「最初はね、不純な動機だったけど。感謝しているよ。Kさんとご両親と、XさんとXさんのお母さんと知り合えて、いろんな家があるんだなって思って」
Aはそこまで言うとこちらを見て、
「あと、ホラー映画みたいに怖がられたりしたり」
と笑った。
「XさんやKさんにいろいろ言われて、やっぱちょっとぐらい実家で住もうかなって思ったんだけど、やっぱね、上京した以上なかなか居づらくって……。なんか、あわせる顔がないっていうの?」
Kは「お前、なんか言ったのか?」といった目でこちらを見ていたが、俺はAの家の事情とかに思いを巡らせていた。
「まさかあんなとこまで来てくれる人がいるなんて思わなかったし、びっくり。なんかね、いろんな人とか、いろんな見方とか、いろんな温かさに出会えたって感じがするなあ」

そんなAの言葉を俺はしんみりとしながら聞き、昔を思い出していた。
あれは1月の終わりか。Kから連絡が来て、驚いたけどこんなこと誰にも話せなかったからネットに書いて。
その後つきまとわれたり、ネカフェに乗り込んだり、正体バレてたり、『お嬢さん』の真似事をさせられたりとかいろいろ驚きの連続だった。大半は自分で撒いた種なのかもしれないけど。でもだからこそこうやってヲチしてきた。

「だから私、やめるわ、『お嬢さん』。
 3ヶ月ちょっとだけだけど、もし私がいたことでKさんのご両親が
 幸せだったなら、私の失礼な行動も、少しはお役に立てたのかなって。
 鶴は恩を返したから、去らなくっちゃね」


⇒(23)へ

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2007年05月11日

「お嬢さんが亡くなったそうで」(21) 5/11 捜索


■流れ
200X年事件 ──→ 2006/12/25初めての来訪 → 2007/1/5友人帰国
→ 1/27その話を聞く → 1/29(1)1/30(2)昨日書いた動機について
2/1(3)K宅訪問にあたり2/3(4)豆まきで初対面2/9(5)Kからのメール
2/13(6)三連休の出来事2/20(7)Kと飲む2/23(8)六本木にて
3/6(9)K彼女さんと話す3/9(10)Aの秘密(1)3/13(11)Aの秘密(2)
3/16(12)Aの秘密(3)3/22(13)次の段階3/27(14)調査
4/2(15)Aのいない日4/9(16)目撃4/17(17)お嬢さんパート2
4/18(18)お嬢さんパート2、続き4/24(19)大切なもの5/2(20)不明
5/11(21)捜索

■(21)捜索

4/14(土)。昼頃にKと待ち合わせをして車でAの自宅のある県へ向かった。
高速に入り途中のパーキングエリアで少し休んでると、Kは朝出るときに親に念押しされたことを話した。
「なんか知らないけどお前が悪いんだとか言われてさー。別に何か悪いことしてたわけじゃないんだけどさ」
先日、隣のビルから見た風景が一瞬甦った。
「親御さんとしては原因を作りたいんだろうね。Kとか、或いは俺とか」
そう言うとKが「うーん」と言ったので、
「俺のこと、なんか言ってた?」
と聞いてみる。
「まあね」と、Kは親が俺がかくまってるんじゃないかとか心配してたよ、と教えてくれた。
「そんなことするはずもないのに」
「でも、そんなことをするやつだからなAは」
ちょっと苦笑して高速に戻った。

「それにしてもなんで出て行ったんだろう」
Kの問いかけに、心当たりがありまくりの俺は「さあ……」としか答えられなかった。
「本人と会えるかな。会えても、戻ってくるかね」というと、Kは眉をしかめた。「原因は本当になんなんだろうね、それがわかれば」
他に知っている人……と頭の中でサーチして、ある人を思い出した。
「そうだ。そういや親戚の人は? Kの親戚の人のところに行ったとかはなかったのかな」
そういうと、Kは運転しながらチラッとこちらを見て、鼻をかいて
「ああ、あの親戚に話したとかってウソなんだよね」
と笑った。
「え!? なんで?」
事情、というかそんなことでなんでウソつくんだろと思い
「別に親戚に知らせてもいいじゃん。なんで?」
と聞くと、
「なんか親としては、恥ずかしいことというか非常識なことをしてることを親戚に話したくないってのがあったんじゃん? 知らないけどさ。それに、最初からお前を巻き込む予定だったんだよ」
「俺を? なんで?」
「Yのことがあったから、丁度いいと思ったんじゃないか」
それっきりKは黙って運転に集中した。
丁度いいってなんだろう、いやなんとなくわかるけど。別に丁度よくはないだろうとか考えたけどそのまま黙って寝てしまった。

Kに起こされると、高速を降りて一般道に出ていた。
「まずは自宅の住所に向かおうか」
一般の地図本の方が使いやすいので、該当地区の辺りを見ながらKに指示を出す。
少し街の中心というか駅から離れたところにAの自宅はあった。
「どうしよっか」
「さて、どうするかだねえ」
二人ともお互いをけん制しあってるが、今は譲り合っているシチュエーションでもなく、第二の『お嬢さん』の時もちょっと経験があったので、俺が率先して呼び鈴を鳴らしにいくことにした。
まず俺が呼び鈴を押す。そして「って、苗字はなんだっけ」というとKが隣から玄関に向かって「○○さん!」と声をかける。
返事がない。ないことは予想していたのでちょっと塀の外から家の様子をうかがってみる。
「誰もいなさそうだな」
とKがいうので
「子供の部屋って2階だよな、2階はどうなんだろ」
といい、近くにあるちょっと盛り上がったところ2階を見てみる。
だが、人の気配というのがしないようだ。
「いないねー」
「ああ、おいちょっと……」
とKがいうので振り返ると、どっかのおばさんが訝(いぶか)しげにこちらを見ていた。Kが走って、
「ここの○○さん、知ってますか?」
と聞きにいくと、今考えると借金取りか何かと間違えられたのだろうか、何も答えず去っていってしまった。だけど時々訝しげにこちらを見る。

「なんか怪しくなっちゃうな俺ら」
そういって「電話には誰か出たんだよね?」と携帯を取り出す。Kは「ああそっか」とAの自宅の番号のメモを差し出す。
その番号にかけながら2人でAの自宅を見る。
プルルル、プルルル
1分ぐらい鳴らしてただろうか。「出ないよ」と切る。
「ったく、どこに行ってるのかね」Kは舌打ちをした。「こっちでもどっかの家に押しかけたりしてないだろうな」
その言葉にハッと気づいた。
「そうだ、マンキツ行ってみない? ネカフェ。この実家に最新のパソコンも光の高速回線もあるとは思えないしさ、俺なら退屈しのぎでネカフェに行くね」
「ああそっか、でもどこにあるんだろう」
車に戻り、地図を開いて駅の辺りを指差す。
「ここが駅だろ、そこそこ開けてるみたいだから、ネカフェぐらいあるはずだよ」
「あるのかな。っていうかいるのかな」
Kが心配そうな声をあげるので、
「わからないけど、とりあえず駅周辺に行ってみよう」
と行き先を決める。続きを読む

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2007年05月02日

「お嬢さんが亡くなったそうで」(20) 5/2 不明


■流れ
200X年事件 ──→ 2006/12/25初めての来訪 → 2007/1/5友人帰国
→ 1/27その話を聞く → 1/29(1)1/30(2)昨日書いた動機について
2/1(3)K宅訪問にあたり2/3(4)豆まきで初対面2/9(5)Kからのメール
2/13(6)三連休の出来事2/20(7)Kと飲む2/23(8)六本木にて
3/6(9)K彼女さんと話す3/9(10)Aの秘密(1)3/13(11)Aの秘密(2)
3/16(12)Aの秘密(3)3/22(13)次の段階3/27(14)調査
4/2(15)Aのいない日4/9(16)目撃4/17(17)お嬢さんパート2
4/18(18)お嬢さんパート2、続き4/24(19)大切なもの
5/2(20)不明

■(20)不明

これでAやらBやら眼鏡男子やらと縁が切れてしまったかなと思うけど、そういうことならまあ仕方がないと思い週末は久々にゆっくり過ごした。
長い間疑問に思っていたことが解決になったのはいいけれど、どうも頭がもやもやする。喧嘩別れという状態でAとの連絡がなくなったので、自分でも少しは気になっているのだろう。

平日が始まってもそんな状態が続き、特にネットカフェの方面にも顔を出さず淡々と過ごしていると、4/12(木)になってKから「久しぶり。Aどこいるか知ってる?」というメールが届く。
なんで俺に聞くんだよと「知らないよ」と短めのメールを返すとすぐ電話がかかってきた。
「え、もしもし?」
「ああ、俺。本当に知らないの?」
切迫感があるKの声に驚いて、「うん、ここのところ連絡ないよ。えーと、一週間ぐらい」と答える。
「……次、俺んちの次にお前んちに行ったんじゃないだろうな」
とKが聞くので何の冗談を、と鼻で笑いそうになるがKはいたって真面目のようだ。
そして今どういう状況なのかが段々わかってきた。
「来てないって。絶対うちには入れさせないから。っていうか、Aが帰ってこないとかなの?」
「そう。この前の週末から」
PCのカレンダーを見ると、4/7(土),8(日)あたりか。
「7日とか8日?」
「うん、7日に荷物持って出て行ったきり、帰ってこないんだよ」
まだ一週間は過ぎていない。だけどAは外泊はKの家族に気を使って「心配かけるから二連泊はしない」と言っていたので今回は異常だ。
「出ていったって、『お世話になりました』とか言ったの?」
と言いつつ、この前話した『鶴の恩返し』の話を思い出した。

※(14)より。
「そうだけど、女子は少ないからね。『お父さん』って言われて嬉しいのはやっぱり娘からだろうし。昔話にも娘にまつわる話の方が多い感じじゃない」
「『鶴の恩返し』なんてそうかもな」
「そう! 鶴ねー、あの話は最後に両親が正体知っちゃって鶴は出て行っちゃうんだよね」
Aもそのうち出ていくのだろうか。
あの時のAの表情が甦る。
「いやそんなことは言ってないらしい」
「『らしい』って、K不在の時に出て行ったのか」
「そう、親には『ちょっと友達のところに行ってくる』とだけ言ったらしいんだけど……」
友達と聞いてピンときたので、「ひょっとして、ああ、ちょっと心当たりあるから聞いてみるよ」と電話してあげることにした。
「え、あるの? なんだ、どこどこ?」
「ネットカフェのお友達たち」
「ああ、やっぱそうだよな。いや俺その人たちの連絡先は知らないからさ」
やはりKはBとかの連絡先なんて知らないか。
俺は「なんだよ」と思い「じゃあ先に俺に聞けばいいのに」と言うと、「まあそうなんだけどね……」とつぶやく。俺には言いづらいとかあったんだろう。
「じゃ、連絡してみるからちょっと待ってて」

一旦Kとの電話を切り、Bに電話する。
Bに本題を切り出す前に「っていうかA今何してるの?」と聞かれてしまった。
「いやその件で電話したんだよ。そっちにいるの?」
「いやいないよ、ここ1週間ぐらい。あの『お嬢さん』遠征の後に一回来たぐらいかな」
「え、それっていつ?」
「先週の平日かな」
となるとAがカラオケボックスで独白した後になるのか。
やはり俺のせいなのだろうか、と携帯をギュッと持って黙っていると、「あんた、何かしたの?」とBが突っ込んでくる。
「いやしてない」というとBは、「そう? ……あの子のことだから、あなたの家に居候しててもおかしくないよね」と笑う。
だからなんで俺んちなんだ。「いや、それはない。とにかくそっちにも、ここ一週間ぐらいいないってことなんだね?」と確認して電話を切った。

再びKに電話してネットカフェには入り浸っていないようだと伝えると、Kは大きな溜息をつく。
「はあーーー。どうしようね、親とか心配してさ。っていうか俺に怒っちゃってさ。お前なんかしたんだろとか連れ戻して来いとか」
「ああ、そりゃあね……」
「本当、どこいったんだろう」
「捜索願……はダメか」と独り言をいう。
するとKも「それは却下だよ、すげー面倒臭くなりそうだし、何が起きたわけじゃないし」といい、「親も俺も多分ネットカフェかお前関係じゃないかって思ってたんだけど」と少しだけ笑った。
「違うっての。家には上げたことないから」
「じゃ、どこにいるんだよ」
なんで俺に詰問するような口調なんだと思ったけど、「心当たりは他にないの?」と答える。
「ないねー、だから電話してる」
「パソコンはKの使ってたんでしょ? 痕跡ないの?」
するとKは「あっ」と気づいたようで、「ちょっと探してみる、また後で」と電話を切った。

電話を切られた後、「ったく……」とパソコンに向かい、途中だったネット閲覧を再開する。
そんな、どこに行ったなんて知るわけないし……田舎とかなのだろうか、とふとAの身分証の話を思い出す。
この『お嬢さん』の初回で、
知人はその娘に聞いて身分証明とかを確認。実家の住所も知っていると。
ってあるじゃないか。
すぐ「身分証明書とか確認したんでしょ? 実家どこだったの?」とKにメールする。
しばらくしてKから「そうだ、実家の住所はあるわ。○○県の……」と返信が来る。
「電話番号は? かけてみなよ」
「俺が?」とKが聞くので「うん、そう」とイラ立って答えると「わかった」とメールが途絶える。
しばらくしてKから、「誰か出たんだけど、名乗ったら切れたよ。イタ電扱いされたのかな」とメールがあった。そりゃ名乗ると切るだろう、Aが電話に出た?
Aの実家は車で行ける場所にある。早速「週末空いてるか? 探しに行くぞ」と提案する。
「俺も?」
「そう俺も! 車出してね」と返信して週末にAの自宅へ向かうことになった。
しかしどうしてK宅を出たのだろうか。俺のせいってのもあるのかもしれないけどなにも家を出ることは……といろいろ思いながら週末を迎える。

⇒(21)へ

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2007年04月24日

「お嬢さんが亡くなったそうで」(19) 4/24 大切なもの


■流れ
200X年事件 ──→ 2006/12/25初めての来訪 → 2007/1/5友人帰国
→ 1/27その話を聞く → 1/29(1)1/30(2)昨日書いた動機について
2/1(3)K宅訪問にあたり2/3(4)豆まきで初対面2/9(5)Kからのメール
2/13(6)三連休の出来事2/20(7)Kと飲む2/23(8)六本木にて
3/6(9)K彼女さんと話す3/9(10)Aの秘密(1)3/13(11)Aの秘密(2)
3/16(12)Aの秘密(3)3/22(13)次の段階3/27(14)調査
4/2(15)Aのいない日4/9(16)目撃4/17(17)お嬢さんパート2
4/18(18)お嬢さんパート2、続き
4/24(19)大切なもの

■(19)大切なもの

4/2(月)、Aと新宿駅で待ち合わせる。
最初はカフェにしようか迷ったけど、あまり聞かれたくない話なので、人目を気にしないようにカラオケボックスに入った。
Aは「最近どうしたの? 連絡したらすぐ来てたのに」「この前の話どうするの? コメディになっちゃうんじゃないの」と言ってたが、カラオケまで歩く俺のいつもと違う雰囲気に気づいたようでそのうち黙った。

ボックスに入り注文の飲み物が届いて、「悪いね呼び出して」とひと息つく。
Aは「そういえばこの前はどんなこと話したの? Bさんもあんまり教えてくれなくってさ。また詳しく書いてくれるの?」と屈託のない笑顔でいうので、「聞くなよあんなこと」と少し怒る。
「あんなこと、嘘ついてるとこ書けるわけないじゃん、俺だって良心持ってるんだからさ」
「リョウシン? ……あぁ、良心ね」Aは鼻で笑った。
「ホントに持ってるの? 楽しそうじゃない。喜んで参加してるじゃん」
「そんなことない、いや前はそうだったかもしれない。自分の知らない世界だし、興味もあったし、でも」
ひと息ついてここ最近の嫌悪感を伝える。
「もう駄目。もうついていけないから俺距離置こうと思う。もうこんなことやめるよ、俺もKと同じでモラル的に拒否反応があるしついていけない」
「そう……」Aはテーブルに肘をつく。「それは残念ね」
少しの間ボックス内が静まったので、外の廊下からヒット曲が流れてきた。

「あのさ」と前から思ってる疑問を聞いてみる。
「思ったんだけど、なんで眼鏡男子やBさんはこれをしないと困るんだろう」
「これ?」
「こんな非現実的な計画というか作戦なんて、無茶だし、いつまでも続くわけもないのに」
「……」
「あくどいこと考えてるわけでもなさそうだし、なんだかよくわからない」と早口でまくし立て、吐き捨てるように「もうやめろよあんなこと。君ももうKんち出なよ。今日はそれを言いにきた」と言う。

少し間があった後、ふとAを見ると険しい顔になっている。険しいというか悲しそうというか。
「そもそも君は何であんなことを? 俺んちの実家とか、俺んちとか。前に『Kんちの小遣いが足りない』とか言ってたのはどうも理由じゃないっぽいし。『お金じゃない』としたらなんだよ?」
と口調を強めると、途端にAが「わかってないのね」と声をあげた。
「……朝起きたら、“おはよう”と言ってくれる人がいないってことよ」
突然だったので「え?」と答えると、Aは話し始めた。

──あのね、Bさんと眼鏡男子と私って偶然片親状態なのよ。
 親が離婚したり、Bはお母さんがもう死別してたり。
 私はお父さんの家に預けられたからお母さんがいない。
 だから『家』がないの。形じゃなく、心というか安住の地がなくって。

 私たちは家でも男でもお金でもない、ただ、この街から逃げて
 『家』に住みたかったの。
 こんなことあんたにはわからないだろうけど。
 「Aは何が目的なんだろう」って、なに面白がって書いてるのよ。
 私たちにとって本当に喉から手が出るほど欲しいのが『家』だったのよ。

 Kさんの家に厄介になって、朝起きたらお湯が沸いてて、
 コトコトってお母さんがまな板で何か切ってて、味噌汁が温められてて、
 「ちょっと待ってね」って……。
 朝、お父さんが新聞持って起きて「Aさん大丈夫?」って、
 普通に普通のことかもしれないけど、私から見ると最高なのよ。
 こんな幸せな家に住んでるなんて、こんなに幸せな場所に自分が入れるだなんて……。

 だからもう『家』での幸せは離したくないの。
 モラル的にどうって言われても構わない、あんな朝を迎えられるのなら、
 こっちが何もしなくても、無償であんなに優しくされるのなら、

 前に言った、「人が生きてくために必要なもの」ってわかった?
 朝起きたり、家に帰ったりしたら、誰かがいることよ。
 誰かがそばにいて、ご飯とか、お風呂とか、テレビとか、
 そういう他愛もないことを話せる人がいること。
 それが必要なの。少なくとも私には。

 家に誰かがいるとか、誰かの帰りを待ったりできるとかって
 当たり前のことじゃない。それってすごいことなのよ。
 帰るところがある。ただそれだけが必要なのに。


ふと気づくと、廊下で流れてるヒット曲が聞こえてくる。
Aはカバンを持つとボックスから出て行った。

このカラオケボックスは1時間で部屋を取ったが、時間を確認するとあと30分ぐらい残っている。適当に曲の本をパラパラめくってあの年に流行っていた宇多田ヒカルの曲をかけた。別にファンってほどじゃないけれど宇多田が社会現象だったあの年、Yとのドライブ中にはよく宇多田の曲が流れていた。そしてひとりで曲だけを聴きながら当時いろいろドライブで行った場所を思い返していた。
そしてその日以来、Aからの連絡は途絶えた。


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2007年04月18日

「お嬢さんが亡くなったそうで」(18) 4/18 お嬢さんパート2、続き


■流れ
200X年事件 ──→ 2006/12/25初めての来訪 → 2007/1/5友人帰国
→ 1/27その話を聞く → 1/29(1)1/30(2)昨日書いた動機について
2/1(3)K宅訪問にあたり2/3(4)豆まきで初対面2/9(5)Kからのメール
2/13(6)三連休の出来事2/20(7)Kと飲む2/23(8)六本木にて
3/6(9)K彼女さんと話す3/9(10)Aの秘密(1)3/13(11)Aの秘密(2)
3/16(12)Aの秘密(3)3/22(13)次の段階3/27(14)調査
4/2(15)Aのいない日4/9(16)目撃4/17(17)お嬢さんパート2
4/18(18)お嬢さんパート2、続き

■(18)お嬢さんパート2、続き

(17)の続き。眼鏡男子が撮ってきたデジカメの画像を見ながら通りを曲がるとすぐに御宅があった。住宅地にある一軒家で二階建ての御宅だ。
「そこだね」とBに伝える。通りには人がおらず静かで、もう夕方だけど周囲の家を見ると洗濯物が干してある家もある。
Bは一旦その通りから出ると、「じゃ、行こうか」と決意したようだ。
「俺は何すればいい?」
「さっきの設定を話せばいいよ。最初こうして……」とBが会話の段取りを組んでいる。
「え? 俺、同行って“玄関前まで”じゃ?」
「玄関まで来て帰ったら変でしょう」
そりゃそうか、覚悟はしていたが緊張が高まってきた。改めて携帯にメモった御宅の情報や設定を確認する。
Bが呼び鈴を鳴らして「すみませーん」と声をかける。「はーい」という声がしたので、無愛想だとあれかなと思いちょっと笑顔をつくる。
ガラッと玄関が開くと年配のお母さんが出てきたのでBと共に深々と頭を下げ、Bが挨拶をした。
「お嬢さんが亡くなったそうで。ご焼香をと思いまして」

それから状況説明やご焼香などがあったけどそれは省略。
リビングでお母さんに向かい合うように正座して雑談した後、「今回伺いましたのは、私も何かお手伝いしたいと思いまして」とBが切り出した。
「え? お手伝い?」
「少しの間、お手伝いさせてくださいますでしょうか」とその後事情を話し出したけど省略。
「そうだったんですか」
「はい、それでですね……」Bの緊張が隣にも伝わってくる。
「私、こちらでお世話になってもよろしいでしょうか?」
息を呑むBと俺。張り詰めた空気の中で顔をあげることもできず、ひたすらお母さんの反応を待つ。
お母さんは「え、お世話に?」と驚いている。
「はい、お役に立てて下さればと思います!」
ここでBが思いっきり土下座をして、伏してお願いし始めた。つられる様に俺も頭を下げ、土下座とはいかないが深々と頭を下げた。
「え……」
お母さんが固まっているのがわかる。
「でも急に……お父さんもいないし」
「お役に立ちたいんです」
そういうBの声はちょっと震えていた。もうなんだか演技とかそういうのを抜きにして、Bがこの家に厄介になることだけを願っていた。

30秒ぐらい経っただろうか。お母さんは足を組み替え、
「困ったわねぇ……」
と吐き出すようにいった。返答に詰まっている。
部屋に漂う沈黙と緊張の膜を破らないように、Bはゆっくりと言葉をつなげる。
「御礼は、この御礼はちゃんと、身をもってさせていただきます」
「んっと……でも返事ができないわ。あなたも? そこの」
ドキッとして思わず顔を上げる。
「あ、いえ私は別に。今回は、今日はこれまでで」
「別で泊まるのね?」
「はい」
再び頭を下げる。自分の心臓の鼓動が聞こえてくる。
「お父さんが帰ってこないとわからないけど……」
「重々承知しております」とBは顔を上げ切々と訴える。
お母さんは大きな溜息を吐き、
「いいですよ。……とりあえずお茶入れましょう」
思わず「やった」と口に出してしまいそうになるのを押さえるのが精一杯だった。
お母さんは席を立ち、台所の方に歩いていく。
ひそひそ声で「おい!」とBの背中を叩く。
Bがゆっくりとこちらを向くと、なんと涙を流している。そこまで演技していたのか、或いは心からの気持ちか。とにかくお母さんを動かしたのはBのお願いだった。

その後お茶を頂き、お母さんが重々しい空気にピリオドをつけるようにテレビをつけた。
「本当に、ありがとうございます」とBが和ませ、
「いえいえ、行くところなかったのでしょう。とりあえずゆっくりして。あなたビール飲む?」とお母さんが優しくしてくれたので、
「はい、いただきます」となぜか俺までもてなしを受けた。
途中お手洗いをお借りしてAへのメールで「大丈夫だって。Bはこのままいるかも」と送ると、Aからすぐ「おおー!すごい!!」と返事が来る。
リビングに戻って三人で他愛のない話をしていると、19時頃にお父さんが帰ってきた。
ここでお父さんの反対というのがあるだろうから第二ステージ開始だなと思い、改めてBと俺は正座をする。
「あれ、どうしたの?」
「ああ、なんか困ってるんだって。お世話になりたいって」
お父さんが不思議そうな顔をする。
「え、困ってるって?」
「あれよ、泊まる場所がないって、お手伝いさせてくださいって」とお母さんが説明をする。
「あなたたち、家出でもしたの?」
とお父さんが言うので首を横に振る。
するとお母さんがお父さんに説明した。
「あれよ、『田舎に泊まろう!』って番組あるじゃない……」



一時は完全にOKを頂いたと思い緊張から開放に向かった心臓が、一瞬で止まったかと思った。
がっくりと肩を落としたBと俺は、御宅を出てからまさにトボトボとした足取りでファミレスに向かっていた。
「お帰り! おめでとう!」とAが飛びついてきて、眼鏡男子が「凄いですね、なんでうまくいくんだろ」と笑っていたが、『田舎に泊まろう!』のロケと間違われたというオチを話すと更に笑った。
「そっか、そっかそっか。ここは東京じゃないもんなあ」
「私その番組見たことないけど、でもだいたい想像つく」
残念だったねといった風の眼鏡男子とAだが、Bの落ち込み具合を見てちょっと気を使ってはくれたようだ。肩を落としたBの運転に支障が出るといけないので、高速のそばぐらいまで俺が運転した。

ちなみに『田舎に泊まろう!』というのは、タレントが単身で田舎に行き、民家で一晩泊めてもらえないか交渉して泊まり、翌朝“一宿一飯の恩義”として掃除などをして別れるという番組だ。
突然ある人が単身で訪問してお手伝いさせてくださいという『お嬢さん』の“交渉”はまさに『田舎に泊まろう』の交渉と同じであった。最初にAが行った都心は田舎ではないのでそのまま通じたが、少し田舎でこれをやると番組でタレントが宿泊交渉をしている様子と重なってしまう。
この番組はたまに見てるのだけど田舎視聴率も高いらしく、タレントが一般の方に声をかけると「ああ、これひょっとして『田舎に泊まろう!』なの?」と反応する方も少なくない。
まさかこんなところでその反応が出るとは。
帰りの車でAと眼鏡男子がフォローをする。
「有名人と間違えられたんじゃないかな、Bさん」
「まあ泊まりでもOKが取れたからいいじゃないですか、丸っきりNGでもなく」
だがBの方はまさかの展開に落胆し続けているようで、
「テレビって言われるとは、まさかだよね……」
と帰りは落ち着いた運転に変わっていた。

俺は車の中でさっきのBの反応を思い出していた。
「まあいいんじゃない」というお父さんに「いや、テレビ番組じゃないんです」とBが言う。
お母さんは「カメラは後から来るの?」とニコニコして「お化粧してこなくっちゃ」と奥に行き、お父さんもドタドタとお母さんの後を追って奥に行く。
取り残されたBと俺は思わず顔を見合わせたが、もう「違う」とも言えない空気だったので「失礼しました!」と逃げるように家を出ていったのであった。

それにしてもあの、玄関で説明している時に感じた嫌な感情はなんだろう。今回そのあたりは大幅に省略しているけど、省略せざるを得ないようなことに付き合ってしまったことに自己嫌悪を感じた。こんなことにいつまでも付き合ってはいられないし、今回のことでもうこの件に関わるのは嫌になってしまった。
なので帰ってからも次の週の週末も、メールが来ても返事は返さなかった。
もうこんなことは終わらせるべきだけど自分だけ去っても後始末とはいえないので、4月に入ったある平日の夜にAと話すことにした。

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2007年04月17日

「お嬢さんが亡くなったそうで」(17) 4/17 お嬢さんパート2


■流れ
200X年事件 ──→ 2006/12/25初めての来訪 → 2007/1/5友人帰国
→ 1/27その話を聞く → 1/29(1)1/30(2)昨日書いた動機について
2/1(3)K宅訪問にあたり2/3(4)豆まきで初対面2/9(5)Kからのメール
2/13(6)三連休の出来事2/20(7)Kと飲む2/23(8)六本木にて
3/6(9)K彼女さんと話す3/9(10)Aの秘密(1)3/13(11)Aの秘密(2)
3/16(12)Aの秘密(3)3/22(13)次の段階3/27(14)調査
4/2(15)Aのいない日4/9(16)目撃
4/17(17)お嬢さんパート2

■(17)お嬢さんパート2

3/16(金)。「見つかっちゃった」ってところにBが行きたくなさそうな様子がうかがえる。その後眼鏡男子からもメールが来て、「Bさんに該当する方が見つかったので来てください」とのことなので早速、17(土)の夕方頃にヤドカリ隊のとこに寄ってみる。またAはおらず、Bと眼鏡男子だけだった。

Bを見ると微妙な表情をしている。この人本当にできるのかよ、やめた方がいいよと思ってたので、「お嬢さんになられるそうで。どこ行くの」と皮肉っぽく聞くがBは答えず興味なさげにファッション誌を眺めてる。
「関東ですよ。場所は内緒の方向で」と眼鏡男子が言っても心の中で整理がついていないのか、Bはひたすら雑誌をめくっている。
眼鏡男子が「Xさん来てくれたじゃないですかあ」というと、Bは「まあね、行くよ。Aは?」と雑誌を放り立ち上がった。
「もうすぐ来ると思いますよ、先に出てましょうか」と眼鏡男子がいったので思わず「Aも来るの?」と聞いてしまった。なんでも外出の許可が取れたとかで来るのだとか。顔合わせづらいなあと溜息をついた。

ネットカフェを出て新宿駅周辺に行く。Bがどこかから車を持ってきたので乗り込み、駅の近くでしばしAを待つ。
「今日は下見ですか?」と聞くと、「どうなんでしょうね、Bさん」と眼鏡男子が笑う。
すべてはBの気持ち次第か。Bはしばらくタバコを吸っていたが、「シナリオ考えてよ」と言い出した。
「シナリオ、ですか?」と眼鏡男子が聞く。
「そう。この通りに言えば大丈夫っていう台本。カンペというか」
「営業トークってやつですか。それならXさんお願いしますよ」と後部座席の俺に話しかけて来た。
「俺が?」
「そうです。僕は地図係りで、Bさん運転してるし、Aじゃ心もとないし」
「えーー」
あからさまに嫌がるが、「どうせ同行してもらうんだからあなたも考えておいた方がいいよ」とルームミラー越しにBがいう。
「同行って……」
「同行はあれよ、玄関前までの同行だから」とBがくすっと笑ったので、焦って「いやいや」と制止する。
「あれは女性が行かないと! ほら、君がお嬢さんなんだから」
「だからその辺を考えてってこと」
「その辺?」
「私がコンコンって叩くよね。そんで家の扉が空くと、そんで20代後半の女性が立ってたら怪しいって言ってたでしょ、無理だよねって」
「ああー、んまあ、そりゃあね」
「だから考えてよ。例えば……『これまで親族でこの子の世話を焼いてきたのですが、Bがどうしても伺いたいというものですから』とかさ」
それはとんでもなく嫌な役回りだなと思い、「どうかなそれー」と呆れるように断ろうとすると、
「ほらまだ時間はあるから。得意の携帯メモでいろいろ案出してよ」
と遮られてしまった。

少しして駅から出てきたAは特に痩せているわけでもなく、いつものAだった。ただ先日の光景が目に浮かんでいるのでちょっと顔は合わせづらい。Aは後部座席の俺の隣に座った。
車が発進して高速の入り口まで走っていると、Aが「どーも」と声をかけてくる。「元気そうだね」と答えると、「なんか聞こえた?」とのこと。
「なにが?」
「私の声」
「え、いつの?」
「この前来た時よ、Kさんち」
「ああ、いや声は別に」
「下から見上げてたんじゃないの?」
とAがニヤけるが、さすがにそこまで侵入染みたことはしないよと言い「まあちょっと、見えたから」と答えておいた。

車は高速に乗り、目的地へと向かう。
東京を過ぎて眼鏡男子もAもウトウトして寝たが、御宅に行った際のシミュレーションを一応いろいろ考えてみる。Bの運転は安全運転派の自分から見ると荒っぽくて冷や冷やした。
すると、「なんかできた?」とBが聞いてくる。
「んー、さっきの『世話してた』『親類』ってのはいいかもね」
「ある日、家に私とあなたが初めて現れて誰もが納得できる関係ってなんだろ。親類か、先生と生徒とかかな」
「上司と部下も……上司はこんなことしないか」と言い、少し笑った。
Bが「リラックスしてきた?」と聞くので、
「いや、まあ……。ただね、巻き込まれてるなあって思ってさ」
「そりゃそうじゃん、書き逃げなんてダメよ」

目的地へ着き高速を降りて少し走り、眼鏡男子の誘導で御宅の近くをウロウロする。
「ストップ。あの通りを入っていったところだ」と眼鏡男子が言うと、車がガクンと止まった。Bが急ブレーキをかけたのだ。
「これ以上先はまずいよね、どっかコンビニに停めよう」とBがハンドルを切り、近くのファミレスの駐車場に停める。
Aは「着いたねー」と手足を伸ばして「じゃ、どうしよっか」とBに聞く。
「眼鏡男子、様子を見に行ってきてよ」
「えー俺が?」
「他が行くわけ行かないでしょう。これから作戦会議するから」
紙とペンを持って渋々様子を見に行った眼鏡男子を残してファミレスに入る。
「台本できたのー?」とAがいうので、とりあえず大まかな設定を話す。
「俺はBの従兄弟ね。父方の従兄弟で、ちょっと年上だと」
「母方にして」Bはタバコに火をつけた。
「ああ、じゃ母方の従兄弟で。Bは東京のOLで法務課勤務。先日とある社員の件で過去の記事を見ていたところ、今回の件を見つけて、たまたま俺がこちらの方に用事があるからってことで一緒に来たと。そんで人事とは思えなかったBは……」
たまらない風にAが吹き出した。
「弱いよ、それじゃ。ね?」とBに聞く。
「まあね。ああ、前は私が考えたのよ、Aの大まかなセリフとか」
「そうだよ、Bさん言ったじゃない。本当に心からのお悔やみの気持ちがないとダメだよって」
「だねー」Bは深呼吸をする。「じゃあ、設定はそれで。あとはアドリブで行ってみるか」
Bが急に自信を持ったので大丈夫かと思ったが、Aをプロデュースしたのなら問題ないだろう。でも俺のほうは大丈夫だろうか。もの凄く緊張してきた。

しばらくして眼鏡男子が戻って、メモった紙で説明を始める。
「この通りの3軒目、玄関はこんな感じです」
デジカメのディスプレイを見ると、普通の一軒家のようだ。
「誰かいた?」と聞くと、「母親らしき人がひとり、1階にいるようです」とのこと。
「よーーし!」BはMAPとデジカメを俺に渡し、気合いを入れた。
「Bさん、気合い入れ過ぎ」とAが諭す。「もっと朗らかに癒しを与えるように、ね」
この『お嬢さんパート2』を間近の最前列で見られるというのは、考えようによっては滅多に体験できないことかもしれない、とそちらの方に意識を持って行った。
Bが席を立ち、ファミレスを出る。
「さてと、行くよ」
俺は勇ましいBにつられるように御宅について行った。


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2007年04月09日

「お嬢さんが亡くなったそうで」(16) 4/9 目撃


■流れ
200X年事件 ──→ 2006/12/25初めての来訪 → 2007/1/5友人帰国 → 1/27その話を聞く → 1/29(1)1/30(2)昨日書いた動機について2/1(3)K宅訪問にあたり2/3(4)豆まきで初対面2/9(5)Kからのメール2/13(6)三連休の出来事2/20(7)Kと飲む2/23(8)六本木にて3/6(9)K彼女さんと話す3/9(10)Aの秘密(1)3/13(11)Aの秘密(2)3/16(12)Aの秘密(3)3/22(13)次の段階3/27(14)調査4/2(15)Aのいない日
4/9(16)目撃

■(16)目撃

3/10(土)、昼過ぎにヤドカリと合流したが眼鏡男子しかおらずBの派遣先は見つかってないようだ。
「まだなにも進んでないです。Bさん待ちですよー」とのことだったのですぐに新宿を去り、そのまま実家に帰る。
うちの実家からKの家は近い。先日新宿で久々にYを思い出した時にAを思い出したりとか、KやAから音沙汰がないのもなんか気になっていたので「Kんちでも行ってみるか」とK宅に電話してみる、が誰も出ない。
どうせひとりで映画を観るつもりだったので、Kの住む駅のそばの映画館で映画を見た後、Kの家方面へ行く途中にあるネットカフェで時間を潰してふとK宅へ行ってみた。行くというか様子を見に行くというか。
突然行っても「音沙汰ないのでどうしてるかなと思いまして」と言えば大丈夫だろうと、K君あそぼ的なノリで呼び鈴をピンポーンと押してみた。人気はあるようだけど誰もいない。なんかマズいタイミングで来たのかなと思い家を立ち去る。

ふと見ると、K宅の隣の隣に雑居ビルがあるので入ってみることにした。
そのビルは随分昔からあり、エレベーターかビル側面の階段を登るとカラオケ屋やレンタルビデオ屋に行ける。高校の時はKらと共に階段から登りAVなどを借りていたものだ。
実はそのビルの階段は途中でKの家、というよりもKの部屋が見下ろせることでも自分の中では有名だった。「ああここから見えるんだ」と気づいてはいたが、前にこのビルに来てた高校の時は大抵Kと一緒だったし、男の部屋を覗いても仕方ないので見ることはしなかったけど。

あの当時の古びた階段はそのままで、昔の光景が甦って懐かしくなった。二階から三階に上り、四階の辺りでふとKの家の方向を見て目を疑った。カーテンが閉まりきっていないKの部屋では、明らかにKと思われる男が上半身裸でPCに向かっている。そしてKに覆い被さるようにTシャツ姿の女性が後ろから抱きついているような格好になっている。Aだ。
家には二人だけなのだろうか。二人ならさっきの家の呼び鈴に出ればいいじゃんとは思うがいろいろ忙しかったのかもしれない。
最近Kは前のようにAを遊ばせないような感じがしていたので、外に出ず部屋で遊んでいたのだろうか。以前、K彼女の時もちょっと束縛っぽいことはあったのかもしれないけどそういう話は聞いてない。

とりあえずここから見えてしまうことを彼らは知らないのだろう。もちろん見ようとしないと見えないだろうけど、普通の大人なら階段の向こうの景色ぐらい見えてしまう。
カーテンを開けると外から部屋見えるってのは、誰かからAが目を付けられるんじゃないかとかいろいろ考え出す。Kの部屋だからAが頻繁に出入りすることはないんだけど、いやでも今こうして部屋にいるしベッドも見えるし……。
Aを見た瞬間に座り込んでしまっていたんだけど、ふともう一度階段の影から頭を出してKの部屋を見る。するとKだけが見えてAはどこかに行っていた。さっきはズボンをはいてない格好だったのでちょっとホッとする。

あまり人の部屋は見てはいけないなと思い階段の陰に隠れ、久々にAにメールしてみる。
「さっきKんち行ったけど誰も
 いなかったみたいだよ。」
ほぼ同時にKにメールしてみる。
「さっきKんち行ったけど誰も
 いなかったみたいだよ。

 でも2Fにいたよね」
Kの方は最後の行に気づくかどうかがポイント。
こうすると、部屋の中では「Xからメールだ。『Kんち行ったけど誰もいない』だって」「ふーん、俺にも来てる」「『外出してた』でいいよね?」「おう」とか相談すんのかな、どうなる? となぜか心臓をバクバクとさせながら携帯を握っていた。

なんで俺がドキドキしなくちゃいけないんだろうと思ってるとAからはすぐにメールが来た。
「ちょっと出てた」
素っ気ないな、と見てるとまた着信、今度はKか。
「来たんだ? 外出してた」
とメールが来て、少しして
「いやいないって」
と連続してメールが来た。「わかりやすい奴だ」とホッとするけど、やっぱそっかあと改めてAとKの関係を再確認できた。前にKから聞いてはいたしAからも聞いてはいたんだけど、実際にこんなに近くで見てしまうとけっこうドキドキしてしまったりする。
また見ようかどうか迷ったけど、Kが部屋の外を見てたら嫌だなと思ったので階段の陰に隠れたままエレベーターで1階に降りた。ちょっとKんちの道の方を見ると特に誰もいない。しかし2Fはカーテンが閉められていた。まさか気づかれたわけじゃないだろうけど。

帰宅後、夜にちょっとAでもKでもいいからからかってやろうと携帯ではなくK宅に電話して、
「Xですけど、Aさんいますか?」
と電話すると、母親が「外出してるみたいだよ」とのこと。ったく、この家族は……。
そういえば (9) でもこんなことがあった。
昨晩K彼女はKの家に電話をしてみたらしい。
「Kの家に連絡したら、お母さんが『いません』としか言わないんですよ。『最近連絡が来なくって』って言ったら『そうですか? ちゃんと家にいるようですけど』としか言わず取り次ぐ様子もない。居留守なんですかね?」
 ただここまで大切にされるというのは大事というか保護されているからいい傾向なのだろう。Aも自由に外泊できるみたいだし、Kの家族にもAにとっても良好な関係が生じてるってことなのかもしれない。もう心配することでもないのだろうか。

夜、久々にAから着信があった。
「ちょっと、どういうつもり?」
小声のようだからK宅の外からだろうか。「何が?」と冷静に答えると、「あんなメールしたりして、っていうか、いきなり来るなんて」と動揺した様子だった。
「いやほら、この前Bさんとこ行ったらいなかったから元気してるかなって。Kからも最近連絡ないし、初心に帰ったんだよ」
「初心って?」
ちょっと困って、「Kの家族が心配になるじゃないか」といってからちょっとマズかったかなと思い、「映画見てて、立ち寄っただけだよ、映画館近いじゃん」とフォローしたが遅かった。
「あなたまだ私のこと疑ってるの?」
「いや、定期的に連絡がないとこちらから連絡するっていう、Kとの取り決めがあったし」
そんな取り決めがあったかどうか忘れたが、慌てて取り繕った。
「それって最初の方の話でしょう、まだそんな金目当てとか考えてるの?」
「……そうじゃないけどさ」
「じゃなに?」
行かなきゃ良かったな、余計なモノを見ることもなかったしちょっぴりストーカーみたいだったと考え、「いや、ゴメン」と答える。
「でも仲良くやってそうでよかったよ。Kさんの両親なんて君との電話つないでくれないんだぜ」というとAは吹き出し、
「んー別にいいじゃんって思うけどね。今Kさんと私がいいところだから、Xには私とコンタクト取るのは遠慮してもらってるんじゃないの?」と言って笑った。
「不思議な奴だな、君」
「不思議? あなたもくだらないことをよく覚えてるよね、不思議っていうか感心するよ」
と話をして「ちゃんとカーテン閉めといてくれ」と伝えて最後は和やかな雰囲気で電話を切る。

とはいえ、前から思ってたけどAがKの家に居つくのはどうも違う気がする。
KだってK彼女に見せた態度のように誠実な男子というわけでもないし、今の状況だとAはKと喧嘩したらあの家の生活は終わりになっちゃうんじゃないか。近いうちにそういうことを言わなくてはいけないと思うけど「そこまで俺が言うことか?」とか「また言い争いにでもなるのかな」とか考えると気が重い。

そして3/16(金)、Bから「該当する件が見つかっちゃったから、同行お願いしたいんだけど」と連絡が来た。


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2007年04月02日

「お嬢さんが亡くなったそうで」(15) 4/2 Aのいない日


■流れ
200X年事件 ──→ 2006/12/25初めての来訪 → 2007/1/5友人帰国 → 1/27その話を聞く → 1/28カラオケボックスで録音 → 1/29(1)1/30(2)昨日書いた動機について2/1(3)K宅訪問にあたり2/3(4)豆まきで初対面2/9(5)Kからのメール2/13(6)三連休の出来事2/20(7)Kと飲む2/23(8)六本木にて3/6(9)K彼女さんと話す3/9(10)Aの秘密(1)3/13(11)Aの秘密(2)3/16(12)Aの秘密(3)3/22(13)次の段階3/27(14)調査
4/2(15)Aのいない日

■(15)Aのいない日

寝たのは3/4(日)の夕方頃で、目を覚ますと19時を回っていた。
起きて少ししてようやく昨日からのことを思い出す。多少眠いけど彼らはまた集まってるのだろうか。見知らぬアドレスから携帯にメールが入っている。
「Bだけど、今日は何してるの」
「いや別に」
とだけ返して、そういや今日も特に予定ないなと思い出す。まあ予定があったら昨日はネットカフェに泊まるなんてことはしないんだけど。するとBから返信が来る。
「やっと起きたの? 昨日のこと知りたいから、今日も来て」
一応溜息はつくが、あれからの話の展開が気になるので今日も行ってみることにした。

新宿で待ち合わせた某所につくと眼鏡男子が来ている。
ネットカフェで待ち合わせればいいのにと思い、「今日もあそこ?」と聞くと、「今日は違うところですね。あんまり一定のところに居ついたりしないんで」とのこと。
「ふうん……。今日も皆さんお揃いなの?」
「あー、今日はAは来てないですね」
「え、なんで?」
肝心の主役が来てないのか、どっかで寝てるのだろうか。そんなことを考えてると眼鏡男子が答える。
「ほら、彼女はKさんちの娘だから土日ずっと外出してると怪しいでしょ?」
「なるほど……」Aも少しは考えてるのか。
「親孝行とKさん孝行もあるんじゃないすかね」
そう言って眼鏡男子はヘラヘラ笑った。
そんなものなのか。確かにせっかく家に居ついてる年頃の娘がずっと外出してるのは怪しいのかもしれない。そんな話をしているうちにネットカフェに着いた。

Bは相変わらずソファーで足を組んでタバコ吸いながら漫画を読んでいた。そういえば前も少年漫画か何かを読んでいた気がする。
「ああ来たんだ。ちょうどお腹空いたからご飯にしよう」
ネットカフェを出てお店に向かう。
昨晩飲んだ居酒屋が安っぽくて嫌だったので、今晩は俺が選んでダイニングバーへ行った。席に着くと、Bは改めて
「昨日はどうだったのー」
と聞いてくる。
「あれ、Aから報告受けてないの?」と聞くと、
「んーその辺適当だからね」と自嘲気味に笑った。
昨日ネットカフェを出て、図書館に行ったけど別に何もなかった旨伝えると、Bは「まあね」と言い「出るわけないよね」と結果を知っていたような顔をした。
「それじゃ、どうやって探すの?」
「Aは言わなかったの?」
「企業秘密中の企業秘密だって」
するとBはちょっと驚いた顔をして、「偉い! Aのことだから言うのかと思ったけど、いい子だよねー」と笑みを浮かべる。
調子に乗って「君もそんな顔して笑うんだね」というと、「私の方はねー、」とスルーされた。
「あるところに注文して、あるものを待っているところ」
「あるもの?」
「そ、あるもの」
「秘密なんだろ?」
「これはちょっとね、もう聞かないで」
これ以上聞くのも何かと思ったので、乾杯した後に他の件について聞く。
「Aってさ、結局どうしたいの?」
Bは少し考え、「どうしたいんだろうね、そんなことあの子の決めることだよ。私やあんたが決めることじゃないし」と神妙な顔になる。
「Aは君らに義理立ててるみたいだよ」というと、「えー!?」とリアクションして「そうは見えないけどなあ」と笑う。
別に隠す話でもないだろうと思い、Aが家に来たがってたこととかを話すと、「そりゃAはあんた狙ってるもん。あ、勘違いしないでね。恋愛感情じゃなくて、あなたの家を狙ってるから」とのこと。
「そうだ、そういや君らなの? うちのとこ見張ってたの」
「ああ、眼鏡男子がちょっとね」
「うちは無理なのになあ、君からも言っておいてよ、Kんちで暮らせって」
「まあねー、そりゃ無理だよねえ」
また自嘲気味に笑うので、Bは本音では今回の件についてはあまりやる気がないように見えた。

食事が運ばれてきて、適当につまみながら話す。
するとBが突然、「私ってどう見えるかな?」と聞いてくる。
「え? なにが」
「いやあの二人だとはっきり言われないっぽいし、正直に言ってみて欲しいんだよね。突然私が来たらどうなるか」
「突然って……」
「家によ、家に。『お嬢さん』として」
「……ああーー」
「Aに偉そうに言った手前さー、新規開拓行ってみようかなって思うけど、Aのケースが特別なだけで無理でしょう?」
なんだわかってるのか、と間を置いて「ま、無理だよね」と答える。
「そうだよねー」
Bは恋愛の悩みを一方的に話すだけ話す女子のような状態になってたので、適当に相槌を打って聞くだけ聞く。するとそれじゃ悪いと思ったのか質問してきた。
「Aからいろいろ聞いてるよ。あの子も最初行く前はいろいろ悩んでたんだけど、吹っ切れたみたい」
「そう? 楽しんでるようにみえるけどね」
そう答えるとBは遠い目をした。
「居場所がいない若い人がさ、若い人を欲しがってるところに行く。確かにモラル的にどうかってのはあるけど、これはこれでアリだと思わない?」
その点についてはYesともNoとも言えない。
「未だに結論が出なくって。貴方が書いたブログの感想で『怖い』ってのがあって、ああやっぱこれって怖いのかな、やめた方がいいのかなとか、まだいろいろ考えてるのよ」
しばし沈黙が流れる。
「Bさん昼間仕事何やってるの?」
「OL」
「それって……」と思わずBを指差す。
「そう、正社員として仕事はしてる。けどちょっと目標があってお金溜めてるんだよね」
「眼鏡男子は?」
「彼はバイトしてる。彼は時々家に帰ってるよ」
家出でもしてるのかと思ったけどBも眼鏡男子もちゃんとしてるのか、少しホッとした。

今日はこのままネットカフェに居ても次回派遣の話も進まないし、Aも来ないので帰ることにした。
新宿の東口から西口へ行き、8年ぐらい前にドライブでYと新宿まで来てた新宿西口のロータリーのとこに寄って帰る。西口に車を停める時はあの辺に停めてたっけとか、あの日は暑かったから車の窓という窓に日よけを立ててドライブの疲れを癒すためにクーラーをかけてシートを倒して休んだとか、Yがペットボトルのお茶を買ってきてそれをシートに寝ながら飲んだものだからお茶を服にこぼしてしまったりとかを思い出した。
あの夏のYの姿を思い出していると、ふと
「人が生きてくために必要なものってなんだと思う?」
と聞くAの姿が思い浮かぶ。
Aにとっては何だろう、ベタに愛情とか家族とかなのだろうか。
「これは宿題ね」と言ったAの顔を思い出しながら帰宅し、長い土日が終わった。


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『オーラの泉』はコント番組と同じ様式だった (ホンマ、大丈夫か?冷静な分析を!)
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『オーラの泉』はコント番組と同じ様式だった (本当に世の中って面白いね、気づかない高知能?者がいるんだねぇ!?)
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