2007年04月18日

「お嬢さんが亡くなったそうで」(18) 4/18 お嬢さんパート2、続き

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■流れ
200X年事件 ──→ 2006/12/25初めての来訪 → 2007/1/5友人帰国
→ 1/27その話を聞く → 1/29(1)1/30(2)昨日書いた動機について
2/1(3)K宅訪問にあたり2/3(4)豆まきで初対面2/9(5)Kからのメール
2/13(6)三連休の出来事2/20(7)Kと飲む2/23(8)六本木にて
3/6(9)K彼女さんと話す3/9(10)Aの秘密(1)3/13(11)Aの秘密(2)
3/16(12)Aの秘密(3)3/22(13)次の段階3/27(14)調査
4/2(15)Aのいない日4/9(16)目撃4/17(17)お嬢さんパート2
4/18(18)お嬢さんパート2、続き

■(18)お嬢さんパート2、続き

(17)の続き。眼鏡男子が撮ってきたデジカメの画像を見ながら通りを曲がるとすぐに御宅があった。住宅地にある一軒家で二階建ての御宅だ。
「そこだね」とBに伝える。通りには人がおらず静かで、もう夕方だけど周囲の家を見ると洗濯物が干してある家もある。
Bは一旦その通りから出ると、「じゃ、行こうか」と決意したようだ。
「俺は何すればいい?」
「さっきの設定を話せばいいよ。最初こうして……」とBが会話の段取りを組んでいる。
「え? 俺、同行って“玄関前まで”じゃ?」
「玄関まで来て帰ったら変でしょう」
そりゃそうか、覚悟はしていたが緊張が高まってきた。改めて携帯にメモった御宅の情報や設定を確認する。
Bが呼び鈴を鳴らして「すみませーん」と声をかける。「はーい」という声がしたので、無愛想だとあれかなと思いちょっと笑顔をつくる。
ガラッと玄関が開くと年配のお母さんが出てきたのでBと共に深々と頭を下げ、Bが挨拶をした。
「お嬢さんが亡くなったそうで。ご焼香をと思いまして」

それから状況説明やご焼香などがあったけどそれは省略。
リビングでお母さんに向かい合うように正座して雑談した後、「今回伺いましたのは、私も何かお手伝いしたいと思いまして」とBが切り出した。
「え? お手伝い?」
「少しの間、お手伝いさせてくださいますでしょうか」とその後事情を話し出したけど省略。
「そうだったんですか」
「はい、それでですね……」Bの緊張が隣にも伝わってくる。
「私、こちらでお世話になってもよろしいでしょうか?」
息を呑むBと俺。張り詰めた空気の中で顔をあげることもできず、ひたすらお母さんの反応を待つ。
お母さんは「え、お世話に?」と驚いている。
「はい、お役に立てて下さればと思います!」
ここでBが思いっきり土下座をして、伏してお願いし始めた。つられる様に俺も頭を下げ、土下座とはいかないが深々と頭を下げた。
「え……」
お母さんが固まっているのがわかる。
「でも急に……お父さんもいないし」
「お役に立ちたいんです」
そういうBの声はちょっと震えていた。もうなんだか演技とかそういうのを抜きにして、Bがこの家に厄介になることだけを願っていた。

30秒ぐらい経っただろうか。お母さんは足を組み替え、
「困ったわねぇ……」
と吐き出すようにいった。返答に詰まっている。
部屋に漂う沈黙と緊張の膜を破らないように、Bはゆっくりと言葉をつなげる。
「御礼は、この御礼はちゃんと、身をもってさせていただきます」
「んっと……でも返事ができないわ。あなたも? そこの」
ドキッとして思わず顔を上げる。
「あ、いえ私は別に。今回は、今日はこれまでで」
「別で泊まるのね?」
「はい」
再び頭を下げる。自分の心臓の鼓動が聞こえてくる。
「お父さんが帰ってこないとわからないけど……」
「重々承知しております」とBは顔を上げ切々と訴える。
お母さんは大きな溜息を吐き、
「いいですよ。……とりあえずお茶入れましょう」
思わず「やった」と口に出してしまいそうになるのを押さえるのが精一杯だった。
お母さんは席を立ち、台所の方に歩いていく。
ひそひそ声で「おい!」とBの背中を叩く。
Bがゆっくりとこちらを向くと、なんと涙を流している。そこまで演技していたのか、或いは心からの気持ちか。とにかくお母さんを動かしたのはBのお願いだった。

その後お茶を頂き、お母さんが重々しい空気にピリオドをつけるようにテレビをつけた。
「本当に、ありがとうございます」とBが和ませ、
「いえいえ、行くところなかったのでしょう。とりあえずゆっくりして。あなたビール飲む?」とお母さんが優しくしてくれたので、
「はい、いただきます」となぜか俺までもてなしを受けた。
途中お手洗いをお借りしてAへのメールで「大丈夫だって。Bはこのままいるかも」と送ると、Aからすぐ「おおー!すごい!!」と返事が来る。
リビングに戻って三人で他愛のない話をしていると、19時頃にお父さんが帰ってきた。
ここでお父さんの反対というのがあるだろうから第二ステージ開始だなと思い、改めてBと俺は正座をする。
「あれ、どうしたの?」
「ああ、なんか困ってるんだって。お世話になりたいって」
お父さんが不思議そうな顔をする。
「え、困ってるって?」
「あれよ、泊まる場所がないって、お手伝いさせてくださいって」とお母さんが説明をする。
「あなたたち、家出でもしたの?」
とお父さんが言うので首を横に振る。
するとお母さんがお父さんに説明した。
「あれよ、『田舎に泊まろう!』って番組あるじゃない……」



一時は完全にOKを頂いたと思い緊張から開放に向かった心臓が、一瞬で止まったかと思った。
がっくりと肩を落としたBと俺は、御宅を出てからまさにトボトボとした足取りでファミレスに向かっていた。
「お帰り! おめでとう!」とAが飛びついてきて、眼鏡男子が「凄いですね、なんでうまくいくんだろ」と笑っていたが、『田舎に泊まろう!』のロケと間違われたというオチを話すと更に笑った。
「そっか、そっかそっか。ここは東京じゃないもんなあ」
「私その番組見たことないけど、でもだいたい想像つく」
残念だったねといった風の眼鏡男子とAだが、Bの落ち込み具合を見てちょっと気を使ってはくれたようだ。肩を落としたBの運転に支障が出るといけないので、高速のそばぐらいまで俺が運転した。

ちなみに『田舎に泊まろう!』というのは、タレントが単身で田舎に行き、民家で一晩泊めてもらえないか交渉して泊まり、翌朝“一宿一飯の恩義”として掃除などをして別れるという番組だ。
突然ある人が単身で訪問してお手伝いさせてくださいという『お嬢さん』の“交渉”はまさに『田舎に泊まろう』の交渉と同じであった。最初にAが行った都心は田舎ではないのでそのまま通じたが、少し田舎でこれをやると番組でタレントが宿泊交渉をしている様子と重なってしまう。
この番組はたまに見てるのだけど田舎視聴率も高いらしく、タレントが一般の方に声をかけると「ああ、これひょっとして『田舎に泊まろう!』なの?」と反応する方も少なくない。
まさかこんなところでその反応が出るとは。
帰りの車でAと眼鏡男子がフォローをする。
「有名人と間違えられたんじゃないかな、Bさん」
「まあ泊まりでもOKが取れたからいいじゃないですか、丸っきりNGでもなく」
だがBの方はまさかの展開に落胆し続けているようで、
「テレビって言われるとは、まさかだよね……」
と帰りは落ち着いた運転に変わっていた。

俺は車の中でさっきのBの反応を思い出していた。
「まあいいんじゃない」というお父さんに「いや、テレビ番組じゃないんです」とBが言う。
お母さんは「カメラは後から来るの?」とニコニコして「お化粧してこなくっちゃ」と奥に行き、お父さんもドタドタとお母さんの後を追って奥に行く。
取り残されたBと俺は思わず顔を見合わせたが、もう「違う」とも言えない空気だったので「失礼しました!」と逃げるように家を出ていったのであった。

それにしてもあの、玄関で説明している時に感じた嫌な感情はなんだろう。今回そのあたりは大幅に省略しているけど、省略せざるを得ないようなことに付き合ってしまったことに自己嫌悪を感じた。こんなことにいつまでも付き合ってはいられないし、今回のことでもうこの件に関わるのは嫌になってしまった。
なので帰ってからも次の週の週末も、メールが来ても返事は返さなかった。
もうこんなことは終わらせるべきだけど自分だけ去っても後始末とはいえないので、4月に入ったある平日の夜にAと話すことにした。

⇒(19)へ

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